MAROONのなんでも diary

MAROONの身の回りの諸々を雑多に書き連ねている日記です。(はてな日記からの移行です)

『電子書籍が出版文化を滅ぼす』(山田順氏/朝日新聞:オピニオン 5月17日付)

えーと、この記事は asahi.com には掲載されていないようです。
氏の主張の要点は「値引きで質の高い作品や情報の流通機能が失われ、大量発信のみ残る」のようですが、自らが所属する「出版業界=出版文化の担い手」という立場からのご意見と思われます。
では、出版業界が氏の主張するような『信頼性が高く価値ある情報を選別し、世の中に流通させる役割を担って』いるでしょうか? もちろんそういう役割を果たしている出版物も多数存在しますが、その一方でいわゆる「トンでも本」と言われるような荒唐無稽な内容の本を売れればいいと言わんばかりの宣伝文句で書店に並べているのもまた出版業界であることを指摘したいと思います。
なので、出版業界自体が氏が指摘するネット(=信頼性も質も保証されない大量発信)と同じ状態になりつつある、いやすでになっていると言っても過言ではないと思います。
あと、『情報コンテンツ産業がこの『課金の壁』で苦しんでいます』という下りもありますが、ここはこの対策のためにガチガチのプロテクトを掛けるが故に正当な利用者の利便性を損ない、利用者離れに繋がりかねないという点を指摘したいと思います。これは氏が文中で何度も例に引いている音楽業界が CCCD で失敗したのを他山の石としてほしいものです。
なお、音楽のダンロード販売の価格がCDと比較して安すぎるという主張に関しては、シングル/アルバムの局数から算出した1曲あたりの価格と比較すると極端に安いわけではないと思います。問題はアルバム単位で買わないで、その中の好きな曲だけ買う人が増えたとうことですが、逆にいうとアルバムではほしくもない(というと言い過ぎかもしれないが)曲まで「買わされていた」という側面もあったという点を指摘しておきたいと思います。○○さんの△△△という曲がほしいがシングルは市場から消え、ベスト盤しか買えるのが無いという状況がσ(^_^)の場合はしばしばある訳で、この時にCDで買うのは高いしなぁ・・・(ほしくもない曲を買わされる、またはすでに持っている盤と被っている)という悩みは常に付きまといますが、1曲で単位で買えれば気軽にあれもこれもと買い集めることも可能です。逆に新譜なら躊躇せずアルバムで購入してもCDより安い(プレス代や流通経費が掛からないので何%か安いのは妥当でしょう)ので、ダウンロード販売は非常に有益な制度だと思います。
【追記】記事の末尾に記者のコメントとして、「音楽や映像より書籍の電子化の方が技術的に簡単なのに、なぜ電子化が一番遅れているのか」という疑問が呈されていました。これを読むと、この記者が本質を何も理解していないことが露呈しています。
音楽や映像はほとんど加工せずにダウンロード販売用のコンテンツが生成できますが、書籍の場合は紙の本をそのままスキャンする場合を除くと、電子書籍のフォーマットに落とし込むためには、最悪はデザインやレイアウトからやり直す必要があったりします。なので、作業量としては既存書籍の電子化のほうが手間がかかると思います。小説などをテキストベース(EPUBなど)で流すだけなら手間はあまりかかりませんが、付加価値などと言い出すと作業が大変です。また、図表の多い書籍の場合には画面サイズがさまざまな閲覧環境にどのように対応させるかという問題も付きまといます。この記者は「取材した」といいながらこの程度のことにも思い至らなかったようで、いったい何を取材しているんだか・・・(-_-)。
【余談】本稿の山田氏は「出版大崩壊―電子書籍の罠」という本を著しておられ、朝日新聞の4月24日付け紙面に書評が掲載されていました。
  http://book.asahi.com/review/TKY201104260111.html